2021.07.26
カスタマーサクセスへの転職を考える ~キャリアパス・スキル・年収etc~
21世紀の現代に最も注目され、最も将来性を期待される職種とも称される「カスタマーサクセス」。
「クラウド」の登場に端を発し、「サブスクリプションビジネス」が飛躍的に成長し、世界中の企業が「DX(デジタルトランスフォーメンション)」に全社レベルで取り組んでいかなければいけないなかで、「カスタマーサクセス」の本質は、企業にますます求められるようになっています。
ここでは、カスタマーサクセスという職業が、なぜここまで注目を集めるのか。なぜ需要が伸びているのか。仕事の内容からキャリアパス・年収・身につくスキルなどについてまとめています。良かったらご覧ください。
目 次
カスタマーサクセスとは ~基礎。まずは大事な概念から~
カスタマーサクセスとは、直訳すると「顧客(以下、カスタマー)の成功」。つまり、「カスタマーの成功を自社の成功」とする考え方です。
それは単なる職務ではなく、新しいビジネス原則であり、企業の根底を流れる精神そのもの。自社の成功にカスタマーの成功を結び、企業の成長エンジンとして重要な役割を担うもの。カスタマーが望んだ成果を達成できるように積極的に働きかける管理プロセスであって、それはカスタマーがあなたの会社のプロダクトないしはサービスを利用して望んだビジネス成果をあげるようにする手法でもあります。
……といってもこれだけでは、いまいちピンと来ない方も多いと思います。もう少しわかりやすく紐解きますね。
カスタマーサクセスの方程式 「CS=CX+CO」
上の図は、カスタマーサクセス分野のリーディングカンパニーであるGainsight(ゲインサイト)によって提唱される方程式です。
カスタマーに満足し喜んでもらうには、カスタマー体験(CX)という観点も必須です。また、カスタマーには目指すアウトカム(成果、CO)を得ていただかなければなりません。
つまりカスタマーサクセスとは、カスタマーの「望む成果」と「体験価値」の両方を提供することです。
カスタマーが高く評価できる体験の帰結として価値を得られることが重要になります。
カスタマーサクセスによって求める成果を達成するに至るまでの経験に満足してくれていれば、カスタマーはきっと契約更新に対して 今まで以上に前向きになってくれます。
また、契約範囲の拡張や口コミ紹介も検討してくれるようにもなるでしょう。仮に、カスタマー数は増えなくとも収益が大幅に増える可能性があるのです。
このように、顧客と伴走し、他者の成功と事業の成長に寄与することができるのがカスタマーサクセスです。
【キニナル!】カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い
カスタマーサクセスはCSと略されます。
しかし、もう一つCSがあります。カスタマーサポートです。同じCSですが、目指す目的と担う役割は大きく異なります。
カスタマーサポートはよく知られている通り、プロダクトやサービスへの不満が拡大しないように問題の収束させていくのが、その仕事です。目的は、問題解決の支援です。基本は1つ1つの案件処理であり、その性質上ほとんどがカスタマーから連絡があって初めて行動を起こす受動的なサービスといえます。
対して、カスタマーサクセスの目的は、「サクセス」という言葉が示すように顧客の成功、すなわち事業の成長です。
そのため、サービスの活用や定着度が低く、事業成長への寄与度が低ければカスタマーに対して能動的なアプローチを取っていきます。長期的な関係構築に注力するものであって、カスタマーからの連絡から事後的に問題処理をしていくものではありません。
一般的に2:8の法則として知られるパレートの法則にあてはめると、カスタマーサクセスの業務は8割が自発的な働きかけであり、2割が依頼への対応になります。
つまり、カスタマーサポートがコストセンターであるのに対して、カスタマーサクセスは利益に対して責任を持つプロフィットセンターである点が、その最大の違いになります。
このように従来のカスタマーサポートの枠を超えてカスタマーとともに伴奏し、他者の成功と事業の成長に寄与することができるのがカスタマーサクセスです。
カスタマーサクセスの仕事とは
カスタマーサクセスのゴールはカスタマーに素晴らしい体験とビジネス上の成果を得てもらうこと。 カスタマーにサービスを利用し続けてもらうことは重要なミッションです。
カスタマーにサクセスしてもらうための業務はさまざまにありますが、仕事は大きく3つにわけられます。
①契約締結後のサービス説明など導入に向けて準備を行う「オンボーディング」
②活用度や利用率を高める「アダプション」
③アップセル(単価・利用料の向上)・クロスセル(他サービスとの併用)を促す「エクスパンション(利用拡大)です。
カスタマーとの中長期的な関係づくりを目指し、信頼の構築に日々注力するなかでこれらの職務を進めていきます。
また、カスタマーの声をプロダクトサイドに届け、サービスの価値を高める「プロダクトフィードバック」も大切な業務のひとつです。なぜなら、社内でカスタマーの声(要望や期待)に最も多く聞いているのがカスタマーサクセス部門だからです。
そのため、プロダクトマネージャーやエンジニア、デザイナーらと協業してカスタマーの要望から新しい機能を追加したり、バグやUXを改善に関わったりすることもあります。セールスやマーケティングと連携してサービスの価値提案に携わることも。
多様なステークホルダーと関わりながら、カスタマーのサクセスのために伴走するのがその仕事です。
【例】1日のスケジュール
カスタマーサクセスの職に就いたら、どんな1日が待っているのでしょう……。
一般的なカスタマーサクセスのある1日のタイムスケジュールの例を紹介します。
組織やサービスの性質によってもさまざまですが、多くのカスタマーサクセスの仕事内容は以下のようなイメージです。
9:00 メールチェック/連絡事項の確認
9:30 チームミーティング
11:30 オンボーディング準備
12:00 昼食
13:00 新規顧客へのレクチャー
14:00 問合せ対応
15:00 機能追加の提案
16:00 顧客状況のヒアリング/対応
17:00 資料作り、データ分析、会議など
18:30 退社
カスタマーサクセスに求められる資質スキル・身につくスキル
「カスタマーと関係を築き、カスタマーの要望を深く理解し、要望を満たせるよう自社プロダクトまたはサービスを戦略的に提案し、カスタマーが望む成果をあげるまで戦術的かつ積極的な行動をとり続けられる能力のある人」
上記はカスタマーサクセスを啓蒙するリーディングカンパニー、Gainsight(ゲインサイト)のCCOらの著書『カスタマーサクセス・プロフェッショナル』(英治出版.2021/3/24)によって定義されるカスタマーサクセスマネージャー像です。
カスタマーサクセスという概念が事業の根幹に根ざす本来の意味で機能する限り、その責任範囲は広く多様な能力が求められますが、そうした職務にあってとりわけ必要になるのが、「カスタマーと関係を構築する能力」です。
カスタマーサクセスは、概念的にも行動面でも「ヒューマンファースト」が重視されます。
カスタマーサクセスマネジャーは、意識的にカスタマーに手をさしのべ、相手の立場でものを考えていかなければなりません。自らの共感性を駆使して、カスタマーが必要とすること、タイミング、そしてそれに応えていくことが大切になります。
つまり、最も重要なことは、できる限りカスタマーと親しくなること。カスタマーとの間に信頼を築くことに関心があり、カスタマーが本当に成功することにやりがいを感じ、彼らとの間に長期的な関係を築くことができることがカスタマーマネージャーとして最も重要な資質になります。
これらを踏まえ、カスタマーサクセスマネージャーの業務を行うにあたり必要なスキルは下記の通りです。
〈カスタマーサクセスマネージャーに求められる能力(仕事で身につく能力)〉
・営業的な折衝力/提案力/洞察力
・社内関係部署と共に成果達成を目指す組織横断的な協働力
・カスタマーの課題の核心に迫っていく的確なリスニング力
・プロジェクト、プログラム、プロセスを能動的に管理し責任を負う能力
・カスタマーの話にしっかりと耳を傾け、相手の立場に立って理解する共感力
・課題解決に向けた適用方法を特定し、追加提案や改善を行うアプローチ力
・目的意識・正確性・説得力のあるコミュニケーション力
・カスタマーの声をデータとしてまとめ分析する能力
・プロジェクトを計画し、カスタマーとともに推進していくマネジメント力
・仮説ドリブンなアプローチで課題に対処し、重要事項に集中する能力
これらはカスタマーサクセスマネージャーに求められる能力です。とはいえ、実務での経験を通して磨いていくスキルでもあるため、仮に上記の能力が現時点で身についていなくとも、チャレンジを諦める必要はありません。
確かに簡単な仕事ではなく覚悟が必要なこともありますが、そうした現時点での能力よりも、「他者の成功や事業の成長に寄与することに心から喜びを感じられる」「人と接することが好きで、問題や課題を解決することを楽しいと思える」。
……そんな“人”としてのヒューマンファーストな資質の方が、はるかに重要な仕事です。
キャリアパスの道が多様 ~市場価値を高める職種のポテンシャル~
SaaSやサブスクリプションモデルの台頭によって世界中のビジネスモデルが大きく変わった現在にあって、カスタマーサクセスの分野でキャリアを積み重ねていくことは非常に理にかなっています。
カスタマーが何を求めているのか。何を望んでいるのか。何に課題に感じているのか。カスタマーサクセスマネージャーの仕事では、日々の業務を通してプロダクトを利用するカスタマーの課題や体験、ストーリーを近くでつぶさに観察し理解する貴重な経験を積むことができます。これらカスタマーに伴走し文字通り成功に導く仕事で得たスキルや経験は、様々な事業分野で大いに活きます。マーケティングやセールス、サポートなど他の職種ではそこまでの機会はなかなかありません。したがって、あなたは社内外のいずれにとっても欠かせない存在となります。
具体的にどのようなキャリアパスが考えられるのか、少し見ていきましょう。
【カスタマーサクセス、キャリアアップの道】
結果を出してきたカスタマーサクセスマネージャは市場価値も高く、キャリアアップの道はさまざまにあります。
・カスタマーサクセスのスペシャリスト
まず分かりやすいところでは、カスタマーサクセスのプロとして会社を支えるスペシャリスト人材(高度専門職)です。昨今ではジョブ型雇用が広がり、ゼネラリストのみではなくスペシャリストとしてのキャリア構築が一般化してきました。まだまだカスタマーサクセスのスペシャリストは少なく希少性が高いことから、その道を極めることはキャリア形成上の有効な選択肢になります。
・リーダーやスーパーバイザーへ。さらにCCOなどCのつく役職へのキャリアアップの道へ
カスタマーサクセスのSV(スーパーバイザー)から部門全体の総責任者やカスタマーサクセスのVP(ヴァイスプレジデント)といった経営レベルの階層へと昇進する道があります。また経験を積んで事業のトップを目指す道もあります。具体的には、契約後のすべての体験に責任を負うCCOや、事業全体の業務執行を統括するCOO、全体のレベニュー(収益)に責任を持つCROなどと呼ばれる役職です。カスタマーのみではなくプロダクトにも精通することが求められるカスタマーサクセスの経験はこれらの職務にも活きてきます。
【カスタマーサクセスから他職種へのキャリアチェンジ】
はじめて、カスタマーサクセスの仕事に就かれる方は、一緒に仕事をする部門の幅広さに驚かれると思います。
それらの経験からカスタマーサクセスマネージャーの転身先として考えられる分野は実に多岐にわたります。コンサルティングやセールス、プロダクトマネージャーや事業企画職……など、その職種の幅広さは枚挙にいとまがありません。
たとえば、カスタマーと関係をつくるコミュニケーションスキルやトークスキルは、セールス職に活きる点は想像に難しくありません。カスタマーを分析し能動的に課題を解決していく能力は、コンサルタント職で求められるスキルと重複する点が大きいです。
あるいは、カスタマーの期待や要望を、実際にプロダクトやサービスに反映させるパターン。プロダクト/事業企画職とも類似性があります。市場調査の結果をプロダクト作りに反映する職務を、カスタマーサクセスの次のキャリアに据えている企業も実際に存在しています。
他にもセールスエンジニアリングや人事、マーケティングなどの職種において活躍の可能性があります。また、すでに米国ではこれら多様な分野での上級職へのキャリアアップが一般的になっています。
とはいえ日本においてはまだロールモデルは確立されておらず、議論と発展の途上にあるのも現状です。したがって、会社からキャリアを与えられるのを待つのではなく、カスタマーサクセスで身につけられるスキルを活かし自ら主体的に他のキャリアにチャレンジしていくことが、新たなキャリアの可能性を拓く上で大切です。
カスタマーサクセスの年収
年収はばらつきがありますが、カスタマーサクセスの平均的な年収は300~800万円といった幅で推移しています。Indeed (インディード)のデータでは、¥5,369,674という報告されています(7月14日時点)。年収500万円台の求人案件は多いですね。
一方で、需要が急増している職種だけあって中には800万~1000万円以上の求人案件も目につきます。実績を残されてきた方や部門そのものの立ち上げを担える方へのニーズは高いです。
また、営業職など職域の近い職種からのカスタマーサクセスへの転職では、前職に比べて年収を上昇させる方もよく見られます。
まとめ ~職種そのものが新しいので専門家は不足。チェレンジには好機~
改めて、「カスタマーサクセス」という仕事は、その職種そのものが新しすぎて現時点では高い専門性を持った人材はそう多くありません。前職もカスタマーサクセスという方もそう多くありません。
人材市場では採用企業の需要に対して供給が追いついていないため、その希少性から自らの市場価値も高めやすく、一定の経験を積んでいれば企業から好条件を引き出しやすいのが、この職種の現状の特徴です。
また前職はセールスやマーケティング、エンジニア、人事、経営企画だったなど、様々な職種の方がこの職種にチャレンジしています。はたまた大規模小売店の店長、学校の教師など胃職種・異業種からの、いわゆる「またぎ転職」によってカスタマーサクセスの職に就く方が多く、比較的チャレンジしやすいのが現状です。
そして一緒に仕事をする部門の幅広さから新しい何かを学ぶ機会も、日々多様に満ちていることと思います。昨日の当たり前が今日の当たり前ではなくなるVUCA時代にあって、ジョブ型雇用の導入が急がれる状況下にあって、非常にユニークな職種でもあります。
以上、本記事ではカスタマーサクセスの仕事を解説させていただきました。ではまた次回、ありがとうございました。